キザなフランス語表現 – d’ores et déjà –

私は毎日Podcastの聞き流しでフランス語の耳慣らしに励んでいます。一日中聞き続ける中で、たまに「?」と思う表現に何回か出くわすことがあります。その一つがこの”d’ores et déjà”(音でいうと「ドー・ゼ・デジャ」みたいに聞こえる)という表現。

なんだか不思議なつづりですが、一体どういう意味だと思いますか?「以後は」「今後は」という意味の副詞句です。念のためラルースのオンライン辞書で調べてみたところ、”dès maintenant”と同義とのこと。文法的な説明は抜きにして、これはもうこのまま覚えてしまいましょう。これは聞いて意味が分かればいいものなので、我々外国人が会話で使うことはまあまずありえないと断言できます。かなり文語的な(ジャーナリスティックな)表現ですね。フランス人しか使わない「キザな」「鼻持ちならない」表現です。

にしても、なぜこのようなカッコつけた表現をフランス人は好むのでしょうね?ひたすら簡潔に言い表そうとする英語とは対照的です。こうした表現を使いたがる理由にも、やはりフランス語独自の背景がありそうです。

フランス語はひたすら「言い換え」の言語。同じ表現をいかに多くのパターンで、かつ(ここが一番大事なのですが)「優雅に」表現できるか、がその話者の「教養」をあらわすバロメーターになっています。例えば「フランス」を主語で表現する場合

La France → Elle → Ce pays → Notre terre → l’Hexagone → ・・・・

・・・、以下「フランス」の言い換えが無限に続くことになります。もっとも、どこかで根負けして最初の”La France”に戻るんですけどね(笑)この「言い換えの訓練」は私たち留学生向けのフランス語クラスですらやらされたのを記憶しています。それくらい「言い換えられてなんぼ」のフランス語なんですね。だから”d’ores et déjà”が出てきたときは、その前にすでに”après”や”dès lors”が使われてしまって、最後のババを引かなきゃならない(カッコ悪いけど同じ単語を使わなければならない)けど、その前にちょっと待った!俺はもう一枚切れるカードを持ってるぜ!的な状況で発せられる表現です(笑)。フランス人がいかに繰り返しを嫌うのか(カッコ悪いと思っているのか)の表れでもあるのかな、と。(ちなみに最後の”Hexagone”はもともとは『五角形』の意味。フランスの国土の形が五角形に近い形をしていることから、この表現は新聞・テレビ・ラジオ問わずよく使われます)

ただ、良くも悪くもこうしたカッコつけた、勿体つけた表現がフランス語をフランス語たらしめているのも事実、そしてそのカッコよさにあこがれてフランス語を習い始めた私たちのような人間が多数存在するのもまた事実(笑)。こうした古典的で、奥ゆかしい表現が受け継がれているからこそフランス語はいまだに国際社会で準公用語のように使われてもいるのでしょうね。

そんなことを思いながら、この”d’ores et déjà”を何かの折に耳にしたときは、「キター!」と叫んでみてください(笑)一発で覚えるはずです!