2022年・金沢能楽会(6月)行ってきました〜ちょっと変わった「間」の見どころについて〜

みなさま

ご無沙汰をしておりますが、いかがお過ごしでしょうか?

今月に入り梅雨の季節、そして時折晴れ間を見せるかと思えば初夏の陽気を思わせるような、蒸し暑い日がだんだんと多くなってきましたね。

前回は金沢能楽会・2022年4月の別会能と宗家の舞!をレポートしましたが、今回は再び毎月恒例の定例能をレポートいたします。レポートが遅くなってしまい大変すみません・・・

ちょっと当塾の、というか新年度に入ってからの活動拠点について少しご報告が。

新年度より早いものでもう3ヶ月が経とうとしていますが、東京都内に活動拠点を移し、少し別の仕事をしています。ですが!当塾はやはり金沢能楽会の賛助会員ということもあり、微力ながら金沢能楽会の活動を支えたいという思いもあり、月一で参加をさせていただいております。

そのためか、ここ数ヶ月の県内の動きやニュースにすっかり疎くはなってしまいましたが、東京都内の文化・文芸関連のレポートなども代わりにお伝えしていければと思います。

最初の演目は「雲雀山」です。この演目、「物狂い能」としても紹介されていてどうやら異色の能楽らしいのですが(※1)それはさておき、個人的に少し驚いたのが「間」が5人もいる、ということでした。これは一体どういうことなのか?

間狂言では、間が前シテ退出〜後シテ登場の間の重要なつなぎ役として、前半までのストーリーをおさらいするとともに後半のストーリーへの重要な橋渡しをする役割です(※2)。その間が複数人いるとは・・・?今回の「雲雀山」では、不勉強だった私にとって「間」演出の新たな一面を発見した演目でもありました。

それは「ワキ」が従者を連れて山に狩りに出かけた際の鷹狩りのシーン(※3)で、特に物語等のシーンがあるわけではありません。おそらく前半・後半の時間差がそれほどない、もしくは間狂言をするのではなくそうした演出によって時間の経過を表す、といった演出効果なのか、とも思いました。実際、この狩のシーン以外で間が登場するシーンはなく、こうした間の演出もあるんだな、と今回学べました(※4)。

そして「雲雀山」では子方も登場です!上演前に大掛かりな籠が舞台上に設置されたので、何かと思っていたらここに「家を追われた姫」(子方)が匿われている、という設定でした。

子方のセリフこそ決して多くはないとは言え、演目中はずっと座って見守り続けていないといけないため子方にとってはその「辛抱」こそが一番大変なのでは?とついつい同情してしまいたくなります。

今年も年初から子方の登場が相次いでいますが、将来の若手がこの中から育っていくと思うと今から頼もしい限りだなと思います。

そして、私が注目するとある役者についてのお話を少し。

それは、昨年から密かに注目しているワキ役者の「綿貫多聞」氏です。昨年の演目では綿貫氏の台詞はほとんどなかったのですが、今年に入ってから綿貫氏のソロパートが非常に増え、とても嬉しく思っています。

というのは、綿貫氏「超美声!!」のワキ役者なのです。狂言師の炭光太郎さんや山田穣二さんも張りのある、非常に美しい声なのですが、綿貫多聞さんも深みのある超美声!(例えるなら男性テノールでしょうか・・・)私はいつも綿貫さんのセリフパートになるとドキドキしながら聞いています!ぜひご覧になる際にはワキの綿貫さんにも注目していただけるといいかなと思います^^とにかくいい声なのです。

続いて狂言は「貰婿(もらいむこ)」。テーマはズバリ「夫婦喧嘩」で、背景知識等は特になくとも楽しめる演目です。夫婦喧嘩という卑近な(!?)話題を扱っている(※5)こともあり、私がこの一年半近く鑑賞してきた中で、お客さんのウケは一番良かった演目かなと思いました。

酒に酔った婿が大声で歌いながら帰宅する最初のシーン、皆さんが金曜日の夜の路上やご家庭で「一度は」目にしたことがあるであろう姿ですね。のっけから笑ってしまうシーンです。

中盤の嫁とのやり取りの滑稽さや、さらに日が改まって素面となった婿が「全く身に覚えのない話」と困惑するシーンも、本当に日常で「よくある」シーンなので思わず笑ってしまいます。

そして最後は、離縁だのなんだのと騒いでいた夫婦がけっろと仲直りし、今度は舅を足蹴にして逃げてしまうという、なんとも滑稽な演目です。

演目とは直接関係ないのですが、実は私はヒヤヒヤしながらこの「貰婿」を鑑賞していました。というのも・・・なんとお父様の炭哲夫氏が後見を努められているので、さぞや厳しい目で光太郎氏の演技を見守ってらっしゃるのだろうな、一言でも間違えようものなら檄が飛んでくるのではないか・・・個人的には「楽しいけれども、見えない緊張感のある」そんな不思議雰囲気の中での鑑賞でした。

それにしても炭光太郎氏の演技、毎月見るたびに貫禄が増して、とてもいい感じだなと感心しています。

最後は「鵜飼」。これは私にとって実は感慨深い演目でもありました。

なぜなら、この金沢能楽会で最初に拝見した演目がまさにこの「鵜飼」だったからなんです!あれから早一年・・・と思うと月日が過ぎるのがあっという間に感じられるのと同時に、この一年をかけてわずかではありますが日常生活の中に能楽を感じる時間ができたことが感慨深くもあります。

ストーリーは至ってシンプルで、禁猟区で鵜飼を行っていた翁が村人に懲罰によって川底に沈められてしまい、その無念を晴らすために僧侶が成仏供養を行う、というものです(※6)

私が去年この演目を拝見したときに感じたことは「僧侶や仏教の教えのありがたさ」そして「信心深くありなさい」という戒めが込められているなと感じました。少し説教くさい演目だな、と思っていましたが、今回の感想はより「芸術鑑賞」の観点からいろいろな物事を感じ取れました。

やはりこの演目、圧巻は間狂言から後シテの登場にかけて、だんだん速くなる笛や太鼓の音、それらがクライマックスに至った時にパッと後シテが現れる。黒・赤・金のド派手な後シテの衣装はいつもその豪華さに驚かされますが、まるで江戸時代末期の九谷焼の「赤手・金蘭」を思わせるような派手派手しい衣装です。

美術史的に、果たしてこの演目が最初に演じられたときにはこのようなド派手な衣装だったのだろうか?それとも時代が下ってから、衣装はアップグレードされたのだろうか?など、そっちの観点からついつい色々考えてしまいました。

おそらく当時は「金」といった色の原料は貴重品だったでしょうから、いくら能楽といえども入手が難しかったのでは?なんてふと思ってしまったりもします。金糸をどうやって入手したのか、どうやって制作したのか、などそちらも気になってしまいました。

能楽を美術史的な観点から捉えることは、それはそれでとても面白いことかなと思いますが、またそれは余力があれば別の機会に譲ることとしましょう^^

さて、今月の定例能レポートは以上となります。また来月もお会いしましょう^^

【参考資料等】

※1:公益社団法人 能楽協会 https://www.nohgaku.or.jp/encyclopedia/program_db/hibariyama

※2:「間狂言」についての説明は以下に詳しい。

文化デジタルライブラリー:https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc12/hayawakari/aikyougen/index.html

公益社団法人 能楽協会「間狂言」https://www.nohgaku.or.jp/guide/狂言の基礎知識

※3:この間狂言で鷹狩りの場面が演じられる。https://kotobank.jp/word/雲雀山-612179

※4:公益社団法人 能楽協会「間狂言」https://www.nohgaku.or.jp/guide/狂言の基礎知識には、間狂言は「前半と後半の間だけでなく、一曲を通してアイが活躍する作品もある。アイは船頭・寺男・山伏の召使などに扮し、シテやワキなどと台詞を交わして筋を展開させていく。シテやワキなどが荷いきれないような滑稽さや人間味を醸し出す役割を負っているといえる。」とも説明されており、今回の「雲雀山」はまさにそのような役として間狂言がなされていた。

※5:「狂言共同社 貰聟」https://kyogen.co.jp/outline/貰%E3%80%80聟(もらいむこ)/ に詳しい

※6:「銕仙会 曲目解説 鵜飼」http://www.tessen.org/dictionary/explain/ukai や  http://www.tessen.org/dictionary/explain/ukai/ukai_2011 に詳しい