金沢能楽会(11月)行ってきました!〜夢幻能『井筒』を鑑賞してきました〜

皆様

いかがお過ごしでしょうか?もう11月になってしまいましたね。

11月に入り、早くもおせちの店頭予約なんかを見かけるようになった今日この頃。なんだか2021年もあっという間に過ぎ去ってしまいますね。

ところで、この能楽レポート自体もかなり久しぶりです(おそらく7月ぶり以来?)8月・9月定例能は都合により欠席し、先月の10月定例能より再開しておりました。

こういう文芸活動は、見る側も常に欠かさず見続けることがとても重要だなと改めて感じ入った次第です。というのは10月定例能を久しぶりに鑑賞した時、さすがに能楽の「勘」が鈍ってしまっていたのを痛感したからです。

何事も、特に教育・学問・文芸というのは「続けることに意義がある」と改めて感じます。

 

 

さて今回の投稿では、先日7日に行われた11月定例能の様子をレポートしたいと思います。

今回の定例能は、緊急事態宣言解除後の初の開催となりました。予想はしていましたが、当日天気が非常に良かったということもあり、金沢市内の人の出は先月に比べかなり多く、道路もそれなりに混んでいましたね。

能楽堂も、前回10月定例能の時に比べて観客の入りが圧倒的に今回の方が多かったので、なかなか驚きました。ここ一年以内で、能楽堂にこれほど観客が入ったのはおそらく久しぶりだったと思います。少なくとも私がこちら石川県に移住してきてから能楽堂に通い出すようになって以来、初めての人の入りだったと思います。能楽師たちがいつにも増して気合が入っていただろうことも容易に想像できます。

 

そして今回の演目は能楽『松尾』・『井筒』、そして狂言『長光』の三部構成でした。

能楽2つ、間に狂言が一つという構成も、この一年能楽堂に通う中ですっかりお馴染みの構成となり、そして大体3時間〜3時間半という演目時間も慣れるようになりました。

そして「後見」「謡」「間」「シテ」「ワキ」など、この一年間で様々に学んだことがやっと少しずつつながってきたのかなあ、という感じもいたします。もちろん、まだ何もわかっていない初心者も初心者ではありますが、自分なりの「能楽の楽しみ方」を少しずつ見つけられるようになったなあというのも感じています。

 

『松尾』はいわゆる「縁起物」、そして『井筒』は「夢幻能」と呼ばれるものでした。

個人的には『松尾』の方が『井筒』よりも分かりやすく、好きだなという印象でした。『井筒』は非常に芸術性が高く、シテの動き自体もほとんどないため、演目の大半の理解は「謡」の解釈に頼る他なく、その意味では解釈が難解で分かりづらい演目なのかもしれません。もちろん、芸術性という点では非常に優れたものがあります。

『松尾』は今の時期にふさわしく、天皇の遣いが松尾明神(出雲)に赴き、そこで目にした美しい紅葉に心を奪われるというもの。私が印象に残ったのは、後シテが「神神楽」を舞うのが印象的で、この舞は通常の舞よりもシテの移動スピードがかなり速いのです。それこそ、まさに「神様が舞う神楽だ」と言わんばかりに、舞台をかなり足速に縦横無尽に駆け回る様子が、通常の人間の舞とは違う(つまり神業だ)ということを強烈に印象付けるものでした。

 

そして今回注目の『井筒』。インターネット等で予習をすると『井筒』は世阿弥の集大成の作品だ、と謳われており、少し緊張の様子で演目に臨みました(※1)。

在原業平と紀有常の娘との夫婦の愛情を、現世の「女」が回想風に語らうというのが前半のパート、そして後半ではなんとツレ(僧侶)のうたた寝の夢の中で、紀有常の娘である「女」が夫の在原業平を偲んで舞を舞う、というものでした。

夢幻能とはまさに「夢の中で舞われる能」。そのため印象的だったのは、シテが舞を舞う際に行われる足の踏み鳴らしがなく、まさに舞が「夢の中で行われている」(そのため無音)ということを表現しているのかなと多います。

またシテが女性であることも相まって、セリフそのものも野太い声ではなく、か細い女性の声で演じられることもあり、演目全体が非常にフワーっとした、それこそ夢現の中で見ているような感覚を覚えるにふさわしい演目です。(そして私も何回か夢現になってしまいました・・・笑)

 

『松尾』と『井筒』はこのように、後シテが舞を舞うというのは共通しているものの、前者は「神神楽」後者は「夢幻能」という全く性格の異なる舞が演じられており、そのコントラストも非常に強烈だったなという印象です。『井筒』は正直私にはあまり印象が強くなかったのですが、『松尾』とのコントラストで鑑賞すると一層その「静」が際立つ作品なのかな、と想像しています。

来月はいよいよ年内最後の定例能ですが、それ以外にも様々な能学が開催されており、これからもますます目が離せませんね!

当塾は来年令和四年も引き続き金沢能楽会の賛助会員として、微力ながら宝生能楽の維持・発展に貢献していきたいと思います。ご興味がある方がいらっしゃいましたら、来月の定例能チケットもまだ沢山余裕がありますので、ぜひお声がけください。

(※1)あらすじはたとえばhttps://noh-sup.hinoki-shoten.co.jp/sh/17/jaに詳しい